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家族信託の契約書は公正証書にしないと駄目なのか

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

家族信託の契約書は公正証書にしないと駄目なのか?

しばしば、このご質問を頂戴いたします。
公証人に公正証書を依頼する場合、公証人手数料がかかりますし、公証役場で立会をして頂く必要もあります。できれば費用節約したい、簡単にしたい、というご要望が当然あります。

法律上は、家族信託を含む信託契約は当事者(委託する側と受託する側)の同意により成立します。信託の抗力は、「契約成立時に発生するのか、財産の移転時に発生するのか」について、従来より諸説があったようですが、先の信託法改正により、「信託契約の締結によってその効力を生ずる」と規定されています(信託法第4条)。

いずれにしても信託契約は公正証書にせずとも十分に有効ですし、法律上問題ありません。(但し、自己信託という委託する側と受託する側が同一人となる信託の場合、「公正証書」、「公証人の認証」、「確定日付された文書による通知」のいずれかによるものとされています。この場合でも、公正証書でなければならないとはなっていません。)

また、信託銀行の商事信託における信託契約や約款について、公正証書になっていることはほとんどありません。

しかしながら、当方においても、家族信託を検討される際、公正証書にして頂くことを強くお勧めしております。特に不動産の場合は、必ずお願いしております。

公正証書にして頂く理由は次のとおりです。

理由①

公正証書を作成する際、公証役場で立会をして頂きます。そして、公証人による、面前での契約条文の読み聞かせが行われます。第三者の立会のもと信託の内容を改めて確認頂くことになります。家族信託は親子間であることが多く、ご高齢の方も多いです。
信託契約書は条文の分量も多くなりがちで、1時間以上かかることもありますが、改めてご認識頂くことは、当事者及び親族等の利害関係人にとっても非常に大切なことになります。

理由②

信託後、受託者により、金融機関において信託管理用の口座を開設したり、ローンの利用を受ける場合、金融機関より信託契約書の事前チェックが必ずあります。その際、公正証書にしていることを条件としている金融機関がほとんどです。
特に不動産の信託のように金銭管理を伴う場合は、必ず公正証書にして頂く必要があります。

理由③

不動産を信託する場合、法務局へ信託の登記を行います。その際、信託目録というものが作成され、信託契約の主要内容が公に開示されます。信託契約を公正証書にしていると一部内容を「公正証書を引用する」旨の記載で対応することができます。

理由④

家族信託の多くは、委託者等の相続の際の財産取得者も定めることが多いです。いわゆる遺言代用信託というもので、実質的に遺言書と同様の法的効果が生じます。
手続においても他の相続人の同意なく行うことができ、検認等の必要もないことから、遺言公正証書に準じ、公正証書にしておくことをお勧めしたいところとなります(法律上の定めがあるわけではありませんが。)。

家族信託は、「今この時」に、将来の財産と家族の方向性を決めることを目的としています。
委託者の意思が、委託者に何(認知症、死亡など)があっても、「今この時」の意思を残し、その意思に関係者が拘束されることになります(信託の「意思凍結機能」といいます)。
公正証書にして頂くことの意味は決して小さくはありません。