COLUMN

コラム・事例

成年後見制度と家族信託

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

「成年後見制度より家族信託がいいのですか。」

という質問を受けることがあります。

その質問の前提として、最近、成年後見制度への「誤解」を持たれている人が多くなっているように感じています。

世間での「成年後見制度」への誤解

世間での「成年後見制度」への評判が悪くなっている感じがするのです。ただ、そのように悪く思っておられる方々のお話を聞いていると、そもそも「成年後見制度」について、その目的、内容について正しく理解されていない、知られていない、と感じることも多いです。そして、それは、むしろ周辺の人々(専門業、不動産、保険などの各業界)に対して感じることが多いです。

確かに成年後見制度における裁判所の監督方針が、大きく変わってきました。毎年厳しくなってきている印象です。成年後見制度が始まって17年以上になりますが、当初を振り返ると大きく変わっています。制度開始当初は、後見人にはご親族がなることが多かったです。

同居又は近くに住む親族を後見人候補者として申立てをすれば、よほどのことがない限り選任されていました。そして、本人に代わり、不動産の売却や建替え、金融機関への担保提供等、後見人によりなされることもめずらしくありませんでした。

現在では、本人にとって必要な売却はできても、建替えや担保提供等のリスクが生じることを、後見人として行うことはなかなか難しいです。また、「後見制度支援信託」により信託銀行への信託指示、または後見監督人の選任等、年々監督が強化される方向に進んでおります。

これら変化が法律等の変更によるものではなく、裁判所の運用としてなされてきていることから、世間一般としては理解しにくいところとなっており、制度への誤解の原因にもなっています。元来、日本には家族を重んじる(最近かなり薄れてきたかもしれませんが。)価値観があります。

「家の収入や財産は家族のもの」「親と同居しているのだから、家計は一緒」という考え方も当然あると思います。一方、後見人がつくと、本人である親の財産をすっかりと分別して、あくまでも本人のためだけに管理していくことが求められます。このあたりも制度への誤解の原因にもなっているように思います。

確かに、現在の制度自体、柔軟性に欠けるところがあると思います。実情に応じた柔軟な管理や処分の実現をしていきたいところです。(この点、今後の法改正に期待したいところです。)

しかしながら、成年後見制度は、決して意味なく監督が厳しいわけではありません。全てに意味があります。

成年後見制度のメリットとデメリット

成年後見人は、いったん家庭裁判所から選任されると、本人の預貯金の入出金が全て単独でできます。株式等の金融資産の解約売却もできます。不動産についても、自宅の売却の場合は家庭裁判所の許可が必要ですが、自宅以外の不動産は自由に売却することができてしまいます。

家裁への報告は1年に1回のため、事後の報告時に、これらの処分について家裁の指導、事情確認、場合によってはペナルティーがなされますが、処分自体は有効に行えてしまいます。もし後見人に「魔が差す心」が生じるようなことがあっても、誰も、その時には止めることができません。

特に身内が後見人になる場合、それぞれの生活には様々なことが起こり得ます。後見人自身に非常に厳しい生活状況が起こることがないとは言えません。その時でさえも、後見人として預かる財産は、手をつけてはいけません。当たり前のことですが、この当たり前のことが難しくなることもあるかもしれません。

閉鎖性を除く「後見監督人」と「後見制度支援信託」

それを防ぐには、精神論ではなく、後見人の財産管理から「閉鎖性(他に誰からも見られない)」を除くことが大切になります。そのための方策が、後見人をチェックする「後見監督人」であり、通常使用しない金融資産を信託銀行を預け、本人にとり必要な場合のみ引き出せるようにする「後見制度支援信託」です。

公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートの意味

この後見人の「閉鎖性」を持つことの危険性は、残念ながら専門家にも生じます。弁護士や司法書士等の専門家でさえ、本当に稀な事象ではあるのですが、後見人の立場を利用した不祥事がニュースになったことをご存じの方も多いかと思います。

まともに考えると、いつか必ず明らかになることを、資格を失う覚悟を持ってでも行うなんてありえないのですが、やはり、これも切羽詰まった状況では、まともを前提に考えられないのかもしれません。

だからこそ、私たち司法書士は、制度開始当初から、業界内に「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」という団体を設け、家庭裁判所よりもずっと厳しい内部監督を義務付けています。また、リーガルサポート独自の指導を受けています。

専門業が後見人になる場合の財産管理

専門業が後見人になると、「本人の生活療養看護のため」だけに財産を管理します。例え本人のご子息であってもその要望に答えられない場合があります。

「親の財産なのになんで他人の後見人が決めるのか」

と思われることもありますが、本人の「今の意思」を確認できない以上、やはり本人の生活を守ることのみが唯一の管理方針となります。後見人は財産管理だけでなく、本人の身の上の管理、療養看護の義務も負います。本人が安心、安定して、より良く暮らしていけるようにする義務があります。

場合によっては施設を変更したり、入院時の手続、ご自宅の修繕、改装の手配等、お身内がいない場合、ご葬儀等の手配を行います。そのために本人の大切な財産を管理いたします。

「親の財産なのに」の親の財産は、あくまでも本人のためであり、家族親族が振りかえって頂いたときに、皆が納得できる財産管理がなされる必要があります。

相続時に発生する問題と成年後見人

相続時に揉める理由の一つとして、親の生前の際の財産の使い方で揉めるケースが多くあります。「通帳からまとまったお金が引き出されている。」とか「お兄ちゃんが生活費にほとんど使ってた」等、相続時に言われてしまうケースを良く見ます。例え親の財産であっても、身内が管理することが難しくなってきているのかもしれません。

人口構成上、現在、69歳の方が一番多いそうです。

これから、10年、20年先、認知症の患者は700万人にもなるとも言われています。

この方々に代わり、財産の管理・必要な処分、施設・病院・介護業者等との契約ができる立場の人は、法律上、成年後見人しかありません。

成年後見制度の必要性と「家族信託」の関係

成年後見制度は、これから益々必要になります。どんなに誤解されても必要な制度です。まずは私たち成年後見人に取り組む者が、本人の実情に応じた財産の管理や処分の実現のため家庭裁判所へきちんと説得説明していく努力をすることで、成年後見制度が社会的に評価される制度になるように取り組みたいと思っております。また成年後見制度への正しい理解、その目的について、皆様に知って頂けるよう働きかけていきたいと思っています。

そして、この成年後見制度への理解があってこそ、「家族信託」が活きてきます。

「この不動産、この金銭については、本人が予め決めた目的、用途、方法により管理活用できるようにしておきたい」場合が「家族信託」です。「家族信託」は、本人が元気なときに導入する必要があります。

「成年後見制度」と「家族信託」

どちらがいいのかではなく、どちらも相互に補完し合って、また他の制度(遺言やご逝去後の事務管理)も検討した上で、本人や家族の実情に応じた使い方が必要となります。