COLUMN

コラム・事例

【家族信託は銀行で、は間違い?】専門家が教えるベストな相談先とは?

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

『信託』と名の付くものはいろいろ

○○信託とか、信託××など、「信託」と名の付くものはいろいろありますよね。例えば投資信託であれば、日常的によく聞く単語なのでイメージしやすいかもしれません。

しかし、家族信託や遺言信託となるとどうでしょうか。分かるような分からないような、なかなかイメージが湧かないのではないでしょうか。

「投資信託」「遺言信託」とは?

株式投資、不動産投資、国債・・・資産を増やす為の投資方法は様々ありますが、「投資信託」もそのひとつです。専門知識や情報を有する証券会社や銀行等に対して自分のお金を託し、その運用を任せ、値上がり益や運用益が出た場合の分配を受け取ることができる、というのが投資信託です。

もし運用がうまくいかなかった場合は、預けていたお金が減ってしまうこともあります。信託と聞いたときに、まず「投資信託」という言葉が浮かぶ方が多いかもしれませんが、つまり投資信託とは証券会社や銀行の金融商品のひとつです。

次に遺言信託についてです。最近では銀行や信託銀行に行くと、「遺言信託」のポスターが貼ってあったり、窓口で勧められることもあるかもしれません。ここで言う「遺言信託」というのは銀行や信託銀行が提案する、数あるサービス商品のうちの一つであり、遺言書の作成・保管・執行を、まとめて銀行等が請け負うサービスのことを言います。

「遺言信託」と言えば、従来より、この遺言サービスのことを指してきました。尚、この「サービス商品としての遺言信託」とは全くの別のものとして、最近、「法律上の遺言信託」も注目されてきているのですが、今のところは置いておきましょう。

『家族信託』とは!?

それでは、いよいよ『家族信託』の出番です。状況に応じて様々な使い方があるのですが、複雑になってしまうので、今日は本当にシンプルな例を挙げたいと思います。

大阪法子さん(78歳・仮名)は夫に先立たれ、夫が残してくれた家で1人で暮らしています。夫が亡くなった時、家の名義は法子さんに移しました。そして法子さんには、息子の太郎さん(50歳・仮名)がいます。太郎さんは1人で暮らすお母さんを少し心配に思いつつも、時々電話で連絡をしたり、様子を見に帰ったりしています。

時が経ち、少しずつ法子さんの様子に変化が出てきたことに太郎さんは気が付きました。

先週話していたことを覚えていなかったり、今までは綺麗に整頓されていた部屋の中がだんだん乱雑になってきたり、最初は小さな変化だったので「もう高齢だし、そんなものだろう」と思っていましたが、いよいよ日常生活にも支障が出るようになってきました。太郎さんが念の為お母さんを病院につれていくと、認知症の疑いがあるという診断結果でした。

太郎さんは、ここで初めてお母さんの財産について考え始めます。病院代もこれまで以上にかかってくるだろうけど、お母さんの貯金はどうなってるんだろう?それに、お母さんにこれ以上1人で生活してもらうのは難しいだろうし、老人ホームに入れるのかどうかも確認しないと・・・。

それからしばらくして太郎さんは、お母さんの貯金をおろそうと銀行に行きました。お母さんの生活費や病院代、そして高齢者施設に入る為の入居費用や施設料を工面する為です。

ところが、銀行の窓口では「ご本人様に来て頂かないと、ご対応できません」と言われてしまいます。その頃にはお母さんの認知症が進んでいて、お母さんが窓口に行って手続きをするのは難しい状態でした。

お母さんの為にまとまったお金が必要な太郎さんは、お母さん名義の実家を売却しようと考えました。お母さんが施設に入れば家は空家になるので、売却するのがちょうど良いと思ったのです。

さて、家は売却できるのでしょうか?

認知症の人が不動産を売却することは・・・

結論を言うと、不動産所有者が認知症等で判断能力が不十分な場合、不動産の売却はできないと考えて頂いた方が良いでしょう。

例えば、法子さんと太郎さんの戸籍を提出して親子関係を証明したとしても、太郎さんが法子さんの実印と印鑑証明書を持ち出すことができたとしても、それだけで不動産を売却することはできません。あくまでも本人の意思に基づく判断が必要です。

本人の判断能力が厳しくなっている場合は、法定後見制度を利用することで、不動産を売却できる可能性はありますが、後見人の判断には様々な制約があり、また、専門家が後見人になった場合、後見人報酬も発生するので、太郎さんのケースにおいてはこれにて問題解決!とはなかなかならないかもしれません。法定後見制度については、別のコラムでも詳しく書いていますので、ご興味をお持ちの方はご覧ください。

予め『家族信託』していると・・・!

さて、では予め何か対策はできるのでしょうか?今回のように法子さんのために法子さんの財産を活用する目的が明確にである場合、法子さんが元気なうちであれば、『家族信託』で備えることができたかもしれません。

法子さんがまだ認知症にならないうちに、もしも法子さんと太郎さんが『家族信託』の契約をしていたら、今回のように太郎さんが困ってしまう結果にはならなかったでしょう。

「信託」とは、「信頼して任せること」。家族信託とは、『自分の財産』を『信頼できる家族等に託し』て、『財産の管理や処分を任せる』ことです。

そして管理や処分の過程で発生した利益(例えば、お母さんの家を売却して受け取った売買代金等)はお母さんの為に管理する義務を息子は負うことになります。こういった制度を利用していれば、お母さんも太郎さんも安心して生活することができたのです。

まとめ

お元気なうちに、万が一に備えた対策をしていただきたいと私どもは考えています。例えば、病気やケガに備える医療保険に入っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。病気もケガもしたくないし、ならないとは思うけれど、万が一の時に困らないよう、念の為と。家族信託についても、同じように考えられるのではないでしょうか。

しかし実際のところは太郎さんのように、お母さんの様子に明らかな変化が出てからようやく対策しようと動き出される方が非常に多い印象を受けます。家族信託をはじめ、例えば生前贈与や遺言書作成等の相続対策も、認知症等で判断能力が不十分になってからでは手遅れなのです。「もう少し早い段階でご相談いただいていれば・・・・」という場面が非常に多い現状を、何とかしたいと私達は考えています。

思い立ったが吉日です。少しでも家族信託に興味をお持ちの方は、お気軽に専門家にご相談ください。