Q&A

家族信託Q&A

Q受託者が委託者の意にそぐわない契約や物件の解約を行った場合、委託者は受託者が結んだ契約を破棄することができますか?
A

受託者は、委託者との間で予め約束(契約)で取り決めた権限の範囲でしか、財産の管理や処分ができません。逆に全面的に権限を付与する(何でもできる)こともでき、むしろ実際にはそちらの方が多く想定されます。もし受託者が、物件の売却などして得たお金を受益者に渡さなかったり、契約に反する管理方法を行ったことにより大きな損害を及ぼした場合等は、委託者・受益者は、受託者に法的に損害賠償の請求ができたり、裁判所に解任の申立てをすることができます。

さらに、委託者=受益者の場合は、上記のような状況にならずとも、委託者・受益者は、いつでも受託者を解任することができます。
(委託者と受益者の合意により解任することができます。)

ただ、突然、理由なく受託者をやめさせられたことにより、受託者に損害が発生した場合は、その分を賠償しないといけない可能性があります。また、現在の受託者を辞めさせる場合は、代わりの受託者を決める必要があります。ちなみに受託者が存在しない状態で1年経ってしまいますと、信託は強制的に終了となります。

Q信託契約時に、委託者は受託者になんらかの制約を付けることは可能でしょうか?
A

将来、認知症になってしまっても、また亡くなっても、「委託者自身」が、「今」希望するとおりの財産の管理運用処分を受託者を通じて実現するしくみなので、まさに信託契約を締結する段階で、委託者本人の希望を実現できるように契約書に、受託者のできること(権限内容)を詳細に定めます。この内容は契約書に記載されるだけでなく、不動産の場合、「信託目録」として信託の登記とともに法務局で記録され、誰もが閲覧確認することができます。

また、実際契約書を作成していく際には、委託者本人の意向だけでなく、財産の管理等を託される側である受託者の意向もじっくり聞いていくことになります。財産の管理等を託される側には託される責任(財産に関する費用の負担もある)も生じ、その責任は結構重たいものであり、それを任せる以上、任される側が財産の管理をなるべくしやすいようにしてあげる必要もあります。

託す側、託される側お互い、大切なかけがえのない財産をいかに将来にわたり管理活用していくか、話し合いにより内容を決めて契約書に記載し、その権限の範囲において、受託者は、財産を管理していくことになります。そして、信託が継続する限り、委託者が認知症になっても、亡くなっても、受託者は忠実に行う義務があり、もしそれに反した場合、解任されたり、損害賠償を負わないといけない可能性があります。

Q二次受益者が指定されている場合、1人目の受益者が信託内容を変更することは可能ですか?
A

委託者との同意があればできますが、受益者単独では信託内容の変更は原則できません。ただし、信託契約で「受益者単独でも変更できる」と定めると可能になります。

夫Aが後妻B(子供なし)を最初の受益者に指定し、次の受益者に前妻の子Cを指定している場合、
このケースでは、後妻さんの生前は、後妻さんに財産の恩恵を受けるようにしてあげるにしても、その後は、後妻の相続人(後妻の兄弟)に財産を行かせないことが目的になるため、受益者単独で信託内容の変更はできないようにすることが必要ですし、実際にそうすることができます。

Q信託内容とは別のところで受益者が多額の債務を背負った場合、信託対象はどうなりますか?
A

信託の特徴として、「倒産隔離機能」というものがあります。

この意味は、財産名義が「受託者」所有名義になっていますが、万一「受託者」自身が破産などしても信託財産は守られる(差し押さえられない)ことになります。従いまして、受益者の権利は守られることになります。また「委託者」が破産等しても、信託により「委託者」名義でなくなっているので、この場合も、信託財産は守られる(差し押さえられない)ことになります。

受益者に破産等信用不安がおこった場合は、受益者の持つ「受益権」が差押えの対象になったり、破産した場合、破産財産として押さえられることになります。ちなみに「受益権」とは受益者が信託財産に対して有する権利(受託者を通じて財産の経済的価値を取得する権利)です。受益権が差し押さえられると、それを取得した債権者が信託財産に対して権利を有することになり、最終的には(信託終了の際)、信託財産から回収されることになることが想定されます。

Q家族信託とは一言で何ですか?
A

「権利を分離すること」です。
例えば、あなたのお父さん名義の収益アパートがあるとします。所有者はお父さんであり、毎月の家賃収入は、所有者であるお父さんの口座に入ることでしょう。また、アパートの管理や金融機関での融資を受けるための契約や手続等を行う権限は、もちろん、お父さんが行使することになります。お父さんがアパートの所有者であるからこそ、当たり前のことです。
ところが、家族信託を利用すると、①毎月の家賃収入からの恩恵を享受できる「価値」の部分と、②アパートの管理をしたり銀行と手続きしたりする「権限」の部分、この2つを分けることができ、例えば、後継者である息子に「権限」のみを移すことで、①お父さんに家賃収入からの恩恵(価値)を受けてもらうために、②息子が権限をもってアパートの管理や活用、処分のための契約は手続をしていくことができます。

Q家族信託をしてどんなメリットがありますか?
A

一番のメリットは、後継者への財産の引き継ぎを「生前に行うことができる」点です。例えば、収益アパートを所有しているお父さんがご高齢だった場合、次のようなことがありませんでしょうか。
例えば金融機関から融資を受けるためには、銀行での契約等が必要ですが、これがご高齢の方には結構大変な手続きです。1時間以上もかけて、多くの書類にご署名を頂かないといけません。息子が代わりに手続をしてくれたらいいのになあ、そう思っても、アパートの所有者はお父さんなので許されません。
家族信託を使うと、代わりに契約をする権限、この権限とそれに伴う責任を息子に移すことができます。お父さんの代わりに息子が金融機関との契約までできてしまうのです。
ただし、移すのは権限と責任のみです。大切な家賃収入、これはあくまでお父さんのものです。息子はお父さんのために家賃収入を管理し、お父さんに給付する義務を負います。これが家族信託です。

Q家族信託はどんな手続きが必要ですか? 
A

家族信託は「当事者の契約」で行います。例えば、収益アパートを所有しているお父さんがご高齢だった場合、お父さんがお元気なときに、権限を託したい人(=息子等)と契約を交わすことになります。当事者の契約で、誰に、どの財産を、どのように、託したいのか、自由に定めることができます。ちなみに、信託契約は、公証役場において公正証書にして頂くことをお勧めしております。
一方、成年後見制度の場合、成年後見人は、家庭裁判所の監督の下において、本人の財産を、本人のために保全、管理を行い、場合によっては本人のために売却等を行います。

Q受益者には誰でもなれますか?
A

個人でも会社等の法人でも受益者になることができます。ただし、ペット等の動物は受益者になることはできません。「ペット自体」は受益者になれず、「ペットを可愛がってくれる人」ならば受益者となれます。また、委託者自身が受益者になることができ、そのような信託を「自益信託」と言います。

Q受託者には誰でもなれますか?
A

個人のみならず、法人も受託者になることができます。
ただし、個人の場合、未成年者または成年被後見人、被保佐人は受託者となることはできません。
また、民亊信託の場合、受託者は、財産の名義を取得して、受益者のために財産の管理処分の権限を行使することになることから、受託者には、高度な信認関係を築ける人になって頂くことが大切です。

Q家族信託とは家族にしかできないのですか?
A

いいえ、家族でなければならないというわけではありません。ただ、信託は、自分以外の人に自分の財産の名義を移転し、所有者としての権限を持たせ、また、それに伴う強い責任を負わせるものです。「信じて託せる方」、ある意味においては、家族以上の信頼関係が必要になるかもしれません。

Q家族信託の手続の流れは? 
A

まずは、信託契約書案を作成いたします。託す側、託される側の意向に沿った将来の資産管理や活用プラン、そして承継内容に基づき、契約内容を決めていきます。
信託契約書案が決まれば、この契約書案に基づき公証役場で公正証書にするための立会を行います。その後、司法書士が、法務局へ信託による名義移転の登記申請を行います。
なお、信託する不動産に、金融機関による抵当権などの担保が付いている場合は、まずは、金融機関への事前説明を行い、信託についての事前同意を求めることになります。

Q家族信託は、家族間の口約束だけでも有効ですか?
A

法律上は、口頭でも信託契約は有効に成立しますが、信託契約に基づき、受託者が託された財産をしっかりと管理運用処分等していくためには、当事者間においても、第三者に対しても、信託契約の内容がしっかりと文書化されている必要があります。また、不動産の場合、信託登記がなされていないと、第三者との関係で、受託者による管理処分等の実現はできません。また、信託契約は、単なる文書にとどめるのではなく、公正証書で契約書を作成して頂くことを強くお勧めしております。

Q家族信託は途中で終了させることができますか?
A

法律で終了できる者が定められていますが、信託契約書にそれとは違う終了できる者を定めることができるとしています。
しかしながら、信託は、その時の本人の意思を尊重して、本人に将来何があっても、その時の本人の意思を実現することを目的とします。そのため例えば、「託された側」の都合のみで終了できるような内容はお勧めできないものとなります。また、「託した側」のみの都合で無制限に撤回できるとしても、名義人として責任ある立場にある「託された側」に不測の負担を及ぼす可能性があります。いずれにしましても、将来、途中で終了しなければならない事態が発生しないような信託内容を心がけたいところです。

Q信託はいつでもやめられるですのか?
A

委託者と受益者は、合意すればいつでも信託を終了させることができます。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、信託の突然の終了により受託者に不利益が生じた場合は、委託者と受益者は、その損害を賠償する必要がありますので注意が必要です。
ただし、上記と異なる内容を信託契約書で定めることもできます。

Q家族信託をしたいのですが、どのように後継者に説明すればいいか?
A

家族信託の最大のメリットは、託す側と託される側が、将来の財産管理や承継について、お互いに話をする「きっかけ」になることです。それぞれの想いは、同じであったり、立場によっては間逆の考えがあったりもします。家族信託を進めることにより、相互理解を促進することができるかもしれません。
親として思い描く資産や家族の将来について、まずは想いのままに披露して頂き、そして今度は相手の立場を想像しながら、じっくりと相手の想いを聞いていく、これこそが、信託の契約書案を検討する進め方となります。

Q家族信託をすると登記簿上の名義はどのようになりますか?
A

登記簿上の名義は、「権限を託された人に移す」ことになります。例えば不動産所有者であるお父さんを委託者兼受益者、その息子を受託者とした場合、不動産はお父さんから権限を託された息子の名義になります。
どういう原因で名義が移るのか、一般的には「売買」や「贈与」、「相続」の原因がよく見られますが、家族信託の場合は「信託」という原因で登記が入ります。また、特徴的なものとして、信託による名義移転の登記がなされると物件ごとに「信託目録」が設けられます。目録にはどのような「信託」がされているかの情報が記載されます。

Q家族信託をすると名義を移すので、贈与税が発生するのでは?
A

例えば不動産所有者であるお父さんを委託者兼受益者、その息子を受託者とした場合、家族信託でお父さんから息子に名義を移しても、「お父さんのために」託された場合は、「贈与税は発生しません。」
なぜなら、家族信託では所有権をまるごと移すのではなく、所有権のうち、「権限」と「価値」を「ぱかっ」と2つに分けたうちの「権限」の部分だけを移すからです。実質的な「価値」の部分(家賃の収入を享受する権利など)は、上の例では、お父さんに残ったままなので、登記簿上の名義は変わりますが、贈与ではありません。

Q父が認知症と診断されました。父の病院代や生活費の捻出する為、父名義の実家を売却できますか?
A

残念ながら、認知症等で判断能力が衰えてしまってからではお父様は不動産を売却できません。ご家族が代わりに売却することもできません。
この状況であれば、お父様の成年後見人を選任して不動産を売却するという選択肢が考えられます。しかし、成年後見人は不動産売却だけの為に選任する事はできませんので、売却後も、後見人の職務は続き、成年後見人への報酬が、お父様のご存命中ずっと発生し続けることになります。このため、成年後見人の選任が本当に必要かどうか、慎重に判断せざるを得ないかもしれません。
このような事態になる前の対策として、家族信託はとても有効です。

Q農地の信託はできますか?
A

結論から言うと、現時点では難しいと考えられます。農地の所有権を移転するには農業委員会の許可が必要になりますが、農地を、農地のまま信託により所有権の移転をすることは農地法で許可できないとされており、農協関係の団体に対してでない限り、許可されないものと思われます。
農地から宅地などへ用途変更をするための所有権移転の許可については、農地法は信託によることの許可を禁じてはおらず、農業委員会の転用の許可が下りた場合は、信託による名義移転ができることになります。