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家族信託で贈与税が発生するのか?そもそもどの時点で誰に課税されるのか?

三枝 正典 御所南所長・司法書士(京都第1307号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第1612093号)

家族信託をはじめとする信託の特徴の一つは、信託する財産の所有権を委託者から受託者に移すことです。つまり、生前に財産の所有名義を移すことになります。

この点、生前に名義を移すとなると贈与税がかかるのでは、と心配になる方もおられるかもしれません。

贈与税は、税率が高いため高額になることが多いです。せっかくの家族信託も贈与税のような高額なコストがかかるようでは、なかなか利用しにくいかもしれません。

果たして、信託で所有権を移転した場合、受託者に贈与税が課税されるのでしょうか?その他、家族信託に伴う課税関係について、信託の流れに沿って見ていきましょう。

設定時、信託で受託者に所有権移転!受託者が贈与税を払うのか?

先に記したとおり、家族信託の大きな特徴の一つが、信託財産の名義を受託者に移すことです。受託者名義にすることで、受託者が、信託財産の所有者として、それら財産の管理や処分ができるようになります。

信託の設定によって、委託者の生前に、信託財産の所有権が受託者に移るわけですから、一見として、これが無償であれば受託者に贈与税が課されるのでは?と心配になるかもしれません。

しかしながら、信託のもう一つの特徴として、受託者は信託財産を、自分のためではなく、受益者のために管理・処分する義務を負います。

その義務の内容は、信託契約に謳われますが、受益者のために忠実に、自分の財産としっかりと分別して、善良な管理者として、信託財産を管理処分していかなければなりません。

すなわち、名義を取得したからといって、贈与を受けた場合のように、信託財産を自分のために自由に使えるわけではなく、受託者は、その財産の価値や利益を得るわけではありません。

贈与税や相続税は、財産の価値を得た時に、得た人に対して課税されます。従いまして、受託者に所有名義が移っても、受託者に対して贈与税は課税されません。課税の対象はあくまでも財産の価値を得る立場である受益者となります。すなわち、税務上は、原則として受益者に課税がされます。

そして、受益者が相続により、受益権を得た場合は相続税が、生前に、受益権を無償で得たのであれば贈与税が課されることになります。税務上は、受益権を取得した者が信託財産に属する財産を取得したとみなして課税がされます。

整理すると次のとおりです。

(1)信託設定の際、委託者=受益者のとき

委託者が受益者になる場合は、実質的に信託財産の価値の移転はありません。そのため、信託の設定によって贈与税は課されません。

(2)信託設定の際、委託者≠受益者のとき

信託設定の際に、委託者とは別の者が受益者になる場合は、実質的に信託財産の価値が委託者から受益者に移転します。受益者が委託者に対して対価を支払うことなく無償で受益権を得た場合は、贈与とみなされ贈与税が課されます。それに対して、受益者が委託者に対して信託財産の価値に相当する対価を支払ったときは、贈与税は課されません。その場合は、委託者に対して譲渡所得税が課税される可能性があります。

信託期間中は誰が税金を払うのか?

信託期間中においても、受益者が、実質的には信託財産を有しているものとみなされますので、信託財産から生じる収益や費用は受益者の収益や費用とされます。

そのため、信託財産から生じる収益から費用を控除した所得は、受益者の所得となり、受益者が税務署への申告を行う必要があります。

また、受託者が信託財産を譲渡した場合、その譲渡による所得も受益者の所得として課税されます。なお、居住用不動産の譲渡所得課税における控除などの各種軽減についても、信託対象不動産を通常に有している場合と同様に適用されます。

では、受益者が受益権を贈与した場合はどうでしょうか。受益者が受益権を贈与すると、それは信託財産そのものの贈与が行われたとみなし、受益権を贈与された者に贈与税が課されることになります。

このように、信託設定時だけでなく、信託期間中においても、その間の収支は受益者に生じたものとされ、受益者が税務申告を行い、また信託財産の譲渡や受益権の譲渡があった場合にも受益者に対して譲渡による所得に対する課税がなされることになります。

信託終了。誰に課税?

信託期間中は、信託財産の「名義」は受託者ですが、信託財産の「価値」やそこから生じる「利益」は受益者に帰属するとみなして、受益者を対象として課税がされていました。

そして信託終了時において、修了後の信託財産の帰属権利者を終了時の受益者と定めていた場合は、受託者よりその受益者に名義を移転することになりますが、実質的には信託財産の価値の移転がないため、帰属権利者に対して課税されません。

それに対し、信託終了時において、修了後の信託財産の帰属権利者に受益者以外の者がなった場合は、その帰属権利者が受益者から信託財産を取得したものとみなして課税がされることになります。

まとめ

このように、信託では受託者に信託財産の所有権が移転しますが、それはあくまで受益者のために管理するためであり、実質的に、信託財産の価値、そしてそこから得られる利益を受けるのは受益者であるとして、受益者に対して課税がなされるのが基本です。

信託財産自体の価値の移転やそこから生じる利益は、全て受益者に生じたものとして課税がされるのです。そのため、信託の組成においては、受益者の受益権が、受益者の死亡時でなく、生前に移転する結果とならないように、すなわち当事者の予期せぬ贈与税が発生しないように細心の注意を払い信託契約書の内容を検討しています。

なお、信託の存続中に、受益者が存在しない状態が発生した場合、課税の対象者であるべき者が存在しないことになってしまいます。そこで、税法は、受益者が存在しない状態が生じた場合は、受託者に対して課税することとして、課税の漏れが生じないようにしています。従いまして、実務的には、受益者の空白が生まれないように注意する必要があります。

以上のとおり、家族信託を検討する際には、税務の検討が不可欠です。いつどのような課税がされるのか、事前に把握しておくこと、また予期せぬ課税が発生しないように注意して信託内容を検討することが重要です。家族信託においては法律だけでなく税務についても専門的な知識・経験に基づき進めていく必要があります。