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【石井満コラム】家族信託による管理をチェックしたい!サポートしたい!(信託監督人とは)

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

家族信託は、家族間で信託を行うものであり、原則的には、裁判所や第三者のチェックの目が入りません。本人のあらかじめ定めた目的や管理方法の範囲内で、家族が柔軟に財産の管理処分を行っていけるところが、家族信託のメリットと言えます。反面、このことは家族信託のデメリットとも言えます。家族という閉鎖的な環境に全てを任せてしまうために適正な財産管理がなされない危険性もあるのです。第三者によるチェックが無いということは常にその危険性を伴います。管理する方もチェックしてもらうことによって安心して管理できるという面もあります。また、家族信託は、管理権限者が専門家でないため、誰かにサポートしてもらった方がいい場合もあります。
家族信託では、あらかじめ、必要により、それらの役割を担う者を決めておくことができます。

信託のチェック&サポート役って何をしてくれるの?

信託法は、第三者によるチェック・サポート役として、①「信託管理人」②「信託監督人」③「受益者代理人」を規定しています。

①信託管理人

信託管理人とは、「信託財産の利益を享受する者=受益者」が存在しない場合に、いつか現れるであろう「受益者」のために「受益者」の権利を行使する者です。「受益者が存在しない信託ってあり得るの?」と思われるかもしれませんが、例えば、将来生まれるかもしれない孫(予定者)を利益の享受者すなわち受益者として、母親(予定者)に信託した場合、実際に孫が生まれる前は、まだ受益者が存在していません。このような受益者が存在しない場面を想定した信託も法律上は可能ですが、受益者が存在しない時点で、課税上のデメリットが生じるため、採用しにくいです。ですので、「信託管理人」は、ほぼ検討されません。

②信託監督人

信託監督人とは、信託管理人と違い、受益者が存在している場合で、受益者のために、託された人(受託者)を監督し、そのために必要となる受益者の権利を行使する者です。信託監督人の監督するための権限は法律上明文で定められています。信託監督人は、受益者が一人でも複数でも、さらに将来受益者になる予定の者も含めて、全部の受益者のために、信託監督人自らの名のもとに、受益者全員のために監督する立場となります(この点次の③受益者代理人と異なります。)。よって、信託全体の監督者的な意味合いを持ちます。詳細は、後に記載いたします。

③受益者代理人

受益者代理人とは、その名のとおり、特定の受益者の代理人として、その受益者が持つほどんどの権利を代理人として行うことになります。受益者代理人は、あくまでもその(特定の)受益者の代理人となります。受益者代理人がいる場合は、受益者自身が受益者の権利を直接行うことができなくなります(一部例外の権利を除く)。また、不動産の信託の場合、信託目録の当事者の欄には、受益者に代わり受益者代理人の名前のみを記載することもできます。以上のとおり、受益者の権限はかなり強いものとなります。認知症対策の信託等、将来、受益者本人による受託者の監督や権利行使が期待できない場合には、効果的かもしれせん。

信託監督人には、どんな権限があるの?

今回は、「信託監督人」を取り上げたいと思います。受益者代理人と異なり、受益者の持つ権利を代理人として全て行えるのではなく、あくまでも「信託全体の監督」的な役割であることから、家族間で信託を活用したいという家族信託において最もニーズがあると考えるからです。信託監督人の権限は、法律で定められています。そもそも受託者を監督する権限は、まずは「受益者」自身が持っています。受益者自身が信託財産の利益をきちんと受けられるように、受託者に対して厳しく監督する権限を持ちます。信託監督人は、その受益者の監督権限を受益者とともに持つことになります。それらは具体的に定められていますが、おおまかに言って次のようなものがあります。

  1. 受益者が信託法上、裁判所に申し立てることができることを代わりに行う
  2. 受託者が、法律や信託契約に反することを行おうとする場合にストップをかける(差し止め)
  3. 反する行為を行った場合に取り消したり、現状に戻せと言ったり、損失を埋めろ、と請求する
  4. 信託の管理上の記録や帳簿などを見せろと請求する
  5. 受託者の債権者が信託財産を差し押さえたときに裁判所に異議を申し立てる

など
そして、これらは全て単に請求するだけでなく、裁判所に申立てや各種提起を行うことができます。このように信託監督人は、設置されるとかなり強い権限を持ちます。なお、信託契約において、これらの権限を予め一部に制限したり、権限を拡大する(拡大の範囲、権限については法律上、その限界や可否について議論がある)ことができます。

信託監督人の役割ってどんなもの?

このように信託監督人は、非常に強い権限を持つことになります。また、家族等の専門家ではない人が信託の管理者(受託者)になることを想定する家族信託においては、信託監督人に求められる役割と期待は大きい場合が多く、その分、監督者としての責任も重大です。
法律上は、信託監督人として、「善良なる管理者としての注意」を払う義務があるとしています。また受益者に対して公平・誠実に監督を行う義務があるとしています。これらは、受益者が自身で受託者を監督できない場合に、信託監督人が権限を行使せず、受託者の不当な財産管理を止められずに信託財産が目減りして、受益者に損害が生じた場合、信託監督人自身が、損害賠償の責任を追及をされる可能性があるということです。また、受益者が複数の場合又は将来に受益者になる予定の者(受益者連続)がいる場合、受益者全体の立場を考えて公平に監督することが求められます。

知っておきたい!あるべき家族信託と信託監督人の必要性

上記のように、信託監督人には、監督者としての高度な専門的知識と公平性、第三者性が求められるため、弁護士、司法書士、税理士等の専門家がなるケースが多く、また、相応わしいとも言えます。ただ、信託監督人は、その権限行使のため、裁判所への申立てを行うことも予定されており、紛争性の生じる場面に関わることもあります。弁護士以外の専門業が信託監督人になる場合は、このような法的行為が、弁護士法に抵触しないかどうかも見極めて就任していく必要があるものと思われます。
本来、家族信託は、目的が明確で、受託者の管理方法も複雑にならず、シンプルな内容が相応わしいと言えます。特に福祉型の認知症対策としての家族信託の場合は、特定の財産を一定の目的や想定される内容(例えば、自宅の売却、修繕、建替えや老人ホームなどの支払い等)で後継者が管理することが多く、家族間(他の相続予定者も含む)の信頼関係で問題なく成り立つ場合も多いです。また、そのようなシンプルな信託こそ、家族信託の内容として相応しいとも言えます。
ただ、信託は、元来もっと多様に活用できるものです。近い将来、認知症等の判断能力低下への備えとしての家族信託だけでなく、資産オーナーや事業経営者の事業承継の計画において、その計画へのあてはめの枠としての信託活用へのニーズ等、様々な活用事例が増えるものとも思われます。事業承継では、現オーナーや経営者から後継者等次世代への橋渡しの際に、第三者が深く関わり、チェック&サポートしていく立場が求められます。まさに、信託監督人へのニ-ズはその際に高まるものと思われます。

まとめ

現時点では、家族信託と言えば、認知症など高齢による判断能力低下に備えた資産管理承継を目的としたものがほとんどです。
まずは、このような社会的ニーズに対応したシンプルな信託が広まることにより、「信託」自体が一般化する必要があり、今は、その段階とも言えます。そして近い将来、その一般化した信託を活用した様々なスキームも広がっていくものと思われます。特に認知症対策と同様に社会的課題と言われる中小企業の事業承継において信託を活用する場面が多くなるはずです。
その際に「信託監督人」の活用は不可欠なものとなっているのではないでしょうか。そして、信託監督人に対するニーズへの検討・整理、信託監督人のあり方の基準、責任分担、行動指針の策定を検討することが、専門家側(専門家各人及び各所属団体)にとっても課題であり、また、その課題が、新たな専門家像を生みだすと考えています。