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【家族信託の手続きを自分でする方法】やり方とリスクについて解説!

小嶋 和代 西宮オフィスマネージャー
米国不動産経営管理士(CPM)

家族信託を利用したいけれど、費用は抑えたい…、専門家の手を借りず、何とか自分で手続きできないだろうか? と一度は検討される方も少なくないでしょう。家族信託の制度を利用する為にはどのような内容のご検討と手続きが必要になるのか、ご案内します。

家族信託を利用するときの手順①信託内容を検討する

実際の手続きの前に、何の為に託したいのか?誰に託したいのか?どの財産を信託したいのか?信託内容の核となる部分を検討するところから始まります。ここは自分である程度考えることが可能な部分かと思われます。

まずは、何の為に信託をするのか、その目的を考えます。例えば、生活・介護等に必要な資金を確保する為であったり、次世代への円滑な資産承継を図る為であったり、障害を持つ子どもに生活費を定期支給する為であったり、家族信託をしようと考えた目的があるはずです。さらに、その目的を達成して頂くために財産を託す人に対してどこまでの権限を持たせるかを検討します。例えば不動産であれば、管理・補修・修繕等にとどめるのか、建て替えや売却、金融機関からの借入まで全面的に任せるのか、様々な選択肢があります。家族信託をした後では、託された人は、この「信託の目的」に従って信託財産を管理・活用していくことになります。

次に、その財産を誰に託すか(受託者)を検討します。そこが一番難しいと仰る方も少なくありません。家族信託をすると、信託する財産の所有権を、ご自身から託す相手に移す必要があります。よくあるのが「家族信託しておけば、元気なうちは自分に所有権があるけど、認知症になった時点で託す相手に所有権が移って家族信託の効果が発動するんでしょう?」という誤解です。確かに、将来、判断能力が低下したことを条件として信託の効果が生じるという条件付きの信託も考えられますが、この場合、どの時点で条件を満たすのかの基準が実際には非常に難しく、また不動産の場合、効力発生の際の登記手続き上の問題もあり、実務では利用しにくいです。実際には、認知症等で状況が変わってから所有権が移るのではなく、家族信託する時点で所有権を移す決断をして頂きます。そして今自分で管理・活用しているのが、託された側による財産の管理・活用に変わります。託す側、託される側双方に強い信頼関係と覚悟が必要になるでしょう。

そして、どの財産を託すかを検討します。家族信託をする際、ご自身の財産全てを信託する必要はありません。例えば今すぐではないけれど何年後かに売却する可能性がある不動産を信託するとか、将来必要になる可能性があるまとまった額の預金を信託しておくとか、実際に、生前に託しておくことで実現したいと考える管理方法や処分が想定される財産を思い浮かべて頂き、具体的に信託する財産を決めます。

以上の項目を決めたら、受益者(信託財産の管理・活用によって発生した利益の恩恵を受ける人)を誰にするかや(多くの場合は信託をするご本人が受益者となる場合が多いと思われます)、託された人の管理をチェックするための信託監督人を指定するかどうか、さらに信託をどのような場合に終了させるか、終了した場合に誰に財産を帰属させるのか、などを検討していきます。

家族信託を利用するときの手順②金融機関に説明する(信託する不動産に担保が設定されている場合)

家族信託しようとする不動産に抵当権等の担保が設定されている場合は、金融機関に何も言わず勝手に信託の手続きをしてはいけません。金融機関から当初借入をした際の契約書には通常、勝手に名義変更をしてはいけない旨の記載があります。しかし家族信託すると不動産の名義を受託者(託される人)名義に変更します。事前に、名義を変更することについて金融機関の同意をもらわず名義変更してしまうとローンの契約違反になり、ローン契約上は残債務の一括返済を求められる可能性もありますので十分注意が必要です。

なお、家族信託による名義変更を金融機関に認めてもらうには、抵当権等の担保の債務者について、受託者による債務引受の手続きを要請されることが少なからずあるかと思います。場合によっては、金融機関から債務引受の要請が無いケースもありますが、特に認知症対策での不動産管理・活用を目的に家族信託をする場合などは、既存担保の債務引受を行った方が、むしろ当事者にとっても好ましい場合が多いとも言えます。この理由など、詳しくは別のコラムをご参照ください。(参考:抵当権の付いた不動産でも信託できますか?

「家族信託するときに、銀行に確認せずに名義変更したけど登記が通った!」「債務引受なんてしなくても金融機関が了承してくれた、ラッキー!」などという声を聞きますが、後になって金融機関から契約違反で残債務の一括返済を求められたり、肝心な時に債務者が認知症になっていてローンの借り換えができなかったり、後から困ったことになっては、何のために家族信託をするのか分からなくなってしまいます。

いずれにせよ、信託不動産に担保が設定されている場合は金融機関への事前説明が必須です。しかし実際のところ、金融機関によっては窓口において、家族信託への正確な理解がまだまだ進んでいないことも多い為、説明する側が家族信託について実践的な知識を持ち合わせている必要があるでしょう。
金融機関への説明を自分で行えるか?という点については、法務・税務・登記・金融機関の立場・高齢社会の手続きの実情について深く理解している必要があり、また、口頭ではなく、書面により金融機関の内部検討がしやすい方法で行う必要があります。自分で説明する際、このあたりがポイントになるかもしれません。

家族信託を利用するときの手順③信託契約書を作成する

①で検討した家族信託の契約内容を元に、契約書を作成します。条文上、単に必要な内容が網羅されているだけでなく、その家族信託で実現しようとする目的や受託者の管理方法、受益者の権利内容、終了事由が、その信託をした意味として周りが理解できるような内容である必要があります。そのためには、必要な条項を記載するのはもちろんのこと、将来起こり得ることを様々想定し、あらゆる条件においても受託者が迷わずに、また当事者に空白が生じないように設計する必要があります。例えば「受託者の権限としてどこまで行えるのか曖昧」「実質的には受託者のためになってしまっている」「こういう状況が発生すると、受益者が存在しなくなる!」というような契約書では非常に危険なものとなります。書籍等で調べながら自分で契約書を作成される場合、このあたりが大切なポイントとなります。信託は、契約書に記載される形式だけでなく実質的な内容が重要になります。実質が伴わないために、将来、相続の際に、信託の存在自体が遡って問われるかもしれません。

また、契約自体は当事者間だけでも成立はしますが、当事務所で手続きをお受けする場合は必ず公正証書で作成していただいています。理由はいくつかありますが、例えば後から第三者(他の家族等も含む)に「この家族信託契約は無効ではないか」「お父さんはその時認知症だったのではないか」などと訴えられた場合、公正証書の方が当事者間だけの契約と比べて契約事実の説得力や信ぴょう性が高いからです。さらに改ざんや紛失の心配もありません。そもそも、金融機関等においては公正証書で作成した契約書でなければ対応してもらえないことが一般的であると思われます。

さらに、家族信託契約と合わせて遺言書の作成をする方が望ましい場合は、この時同時に作成します。

家族信託を利用するときの手順④不動産登記をする

③で作成した家族信託契約書を元に、信託不動産の所有権移転登記を行います。登記されると、以下のように登記簿に記録され、信託が行われていることが登記記録から分かるようになります。

原因 平成○年○月○日信託
受託者 大阪市○○区○○町1-1-1
大阪法夢
信託目録第○○号

また、同時に信託目録が登記されます。信託目録には信託の内容が記載されますが、どの程度詳しく記載するかについては検討する必要があります。(参考:【専門家監修】民事信託のデメリットとは?有効活用するためには?

さらに、抵当権等の担保の債務引受が必要である場合は、金融機関と債務引受契約を締結し、それについての登記手続きも行う必要があります。

⑤金融機関で信託口口座を作成する

これは非常に重要です。詳細については別コラムをご参照ください。(参考:信託口口座
②と同じく、金融機関によっては信託口口座についての認識が進んでいないことも考えられますので、金融機関に対して十分に説明をする必要があります。また、金融機関の方針として信託口口座の開設はしないという場合もございます。自分で説明して信託口口座を作ってもらえたとしても、名義だけ「信託口」とついているだけで実質的には信託口口座として機能しない場合もありますので、注意が必要です。

まとめ

以上、家族信託の手続き方法とリスクについてご案内しましたが、自分で手続きを行うのは簡単ではないと感じられた方も多いのではないかと思います。専門家に手続きを依頼する場合、家族信託の導入時にはまとまった費用がかかってしまうのは事実ですが、信託が必要な方にとっては費用以上の安心感や効果を得られると考えています。
家族信託の実務経験豊富なおおさか法務事務所に、お気軽にご相談ください。