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コラム・事例

抵当権の付いた不動産でも信託できますか?

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

「銀行の抵当権の付いた不動産でも信託できますか?」

というご質問がありましたら、

「できます!」と即答させて頂いています。

条件が必要

しかしながら、実は、銀行等の抵当権の付いた不動産を信託する場合は、それなりの工夫が必要です。
無条件にはできないのです。必ず、その銀行等の協力が必要となります。

銀行等の抵当権の付いた不動産を信託する場合、所有名義の移転を行うため、必ず、抵当権者である銀行等の同意が必要となります。

登記手続上は、銀行等の同意がなくても所有名義の移転登記ができてしまいますが、ローン契約上、銀行等の同意なく名義移転はできないことになっており、同意なく名義を変えてしまうと契約違反となってしまいます。(勝手に名義移転すると、残債務を一括して返済しなければならない旨ローン契約書に記載されています。)

そして、銀行等が同意してくれるかどうかは、状況によります。無条件で同意して頂ける場合もあれば、名義を取得する者への債務引受を条件とする場合もあります(むしろ後者の場合が多いかもしれません。)。

信託特有の問題ではない

ちなみに、これらは贈与や離婚に伴う財産分与等、他の原因による所有名義移転の場合も同様であり、信託特有の問題ではありません。

しかし信託の場合は特に、信託特有の性質を把握した上で、銀行等に対して提案を行うことが必要になるかもしれません。通常は、信託により銀行等に法的なリスクが生じないような提案ができないと、同意を得ることは難しいのだと思います。

では、今回は、収益アパートを信託した場合を例として、検討してみたいと思います。

「信託により、銀行等に法的なリスクは生じるのか?」

抵当権の付いた収益アパートを信託した場合、「抵当権の負担」自体は信託しても付いてきます。これは、信託法第21条1項2号による「信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利」として、当然に信託財産で負担することとなります。

また、抵当権の「登記」がなされていることから、信託による名義移転に抵当権が優先するのは当然でもあります。

したがって、収益アパートそれ自体については、もし債務が返済されなくなった場合、銀行等としては、その信託不動産を抵当権により競売することで回収できることになります。また、競売まで行かなくても、信託受託者としては、任意売却等の換価に応じざるを得なくなるものと思われます。(その意味では、信託の前後により、抵当権者である銀行等に大きな影響は無いと言えます。)

ただ、銀行等としては、

  • ①信託不動産の換価によって債務全額の回収に至らなかった場合、残債務についてどこから回収できるのか、が大きな関心事となります。

また、

  • ②不動産の換価という決断の前に、まずは、アパート収益金の口座を即時に凍結し、そこから回収したいところです。

アパート収益金の口座を凍結するには、その口座名義がローン債務者の名義である必要があります。
すなわち、イザというときに、銀行等が「相殺」できる必要があるのです。

ちなみにアパート収益金の口座は、信託により、「受託者」名義で管理する口座(信託口口座)に変更されており、信託財産となります。(分別管理のため、信託の際に変更されていなければなりません)。

一方、抵当権で担保される「債務」自体は、当然には「信託財産としての受託者」で負担されません。
この点について、

「抵当権は信託財産に付いてくるので、その抵当権で担保される債務も「信託財産としての受託者」で負担するはず。」

と、言う方もおられますが、通説的には、当然には債務は「信託財産」では負担されません。

従いまして、何もしなければ、ローン債務者は「委託者」のまま、収益金管理口座名義は「信託財産としての受託者」の状態になります。これは銀行等にとってリスクになるかもしれません。

抵当権の付いた収益アパートを信託する場合、銀行等のリスクを回避するためには、信託契約の際に、信託後のローン「債務者」について、どうするかの「工夫」が必要になるものと思われます。

債務者の属性や、担保余力によっては、上記リスクを考慮する必要がない、という場合もあるはずです。その場合、特別な工夫を必要としない場合もあり得るかもしれません(実際そのような実例もあります。)。また受益権(信託の権利を享受する権利)を質権に入れることを条件とすることで同意を得れる場合もあるかもしれません。

いずれにしましても、担保権付不動産を信託する際には、銀行等に生じうるリスクをしっかりと踏まえたうえで、当該リスクへの対応がきちんとなされた提案を行うことが大切となります。