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コラム・事例

財産・資産を承継する家族信託。手続き前にまとめておく情報は?

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

何を家族信託すればいいの?

「家族信託と遺言はどちらがいいですか?」とか「家族信託は成年後見よりいいのですか?」とご質問を受けることがあります。そのようなご質問には、「それらはどちらが良いというものではありません」「遺言や後見では実現できない資産管理承継方法の隙間を家族信託で埋めていくものです」と答えています。

家族信託のご相談の際には、その「隙間」を想定して頂くことになります。その「隙間」に該当するかどうかを検討する中で、「何を家族信託するか」が決まってきます。

そもそも、全ての資産を信託する必要はありません。本人の大切な資産を家族の誰かが代わりに管理する必要性のある資産を家族信託すればいいのです。

例えば、不動産の場合であれば、もし本人が認知症になったら売れなくなってしまう、または建替えができなくなってしまうかもしれません。裏返して言えば、近い将来(本人がご存命中に)売却や建替えの可能性のあるものが家族信託の対象として相応しいものです。また金銭(預貯金)の場合、今は銀行に預けているが、近い将来、本人のために支払う必要性の生じる可能性がある金額(例えば、老人ホームの一時金、所有物件のリフォーム等)は、家族信託の対象として相応しいです。

本人のご存命中に処分や引出しの必要性の無い財産は、必ずしも信託する必要はありません。特に不動産の場合、信託登記の登録免許税等の登記費用の負担が発生しますので、費用面からも必要最小限の財産を信託することをお勧めしております。

家族信託は誰にするものなの?

次に「誰に託すか」です。家族信託を導入できるかどうかの最重要ポイントは、この託せる人(受託者といいます)がいるかどうかです。

将来の後見人として専門家を選ぶことができる任意後見契約や信託銀行又は信託会社に信託をする商事信託と異なり、家族間で信託を行う家族信託は、この受託者となるに相応しい人が存在していて、受託者が信託契約に基づきしっかりと管理していくことにその命運がかかっています。

「信託」は、「信じて託す」と書きますが、文字通りの「信じる」だけでは、まだ生易しいかもしれません。その財産を通じて、託す人託される人が運命共同体的に関わりのある人こそが家族信託の受託者になれるのかもしれません。

本人のために行うことが自分のためになるに等しい、また、本人やその財産に損失が生じたら自分が将来にかけてその責任を負担していく、このような関係を築いている、そして、これからも築ける人が受託者になるべき人と言えます。家族に権限だけでなく責任も渡すこと、それが家族信託です。

家族信託って何のためにするの?

以上のとおり、家族信託に相応しい財産は、将来本人が存命中に処分したり引き出したりする可能性のあるものです。また、その処分方法や活用方法を強く理解した、ある意味運命共同体的な人が受託者になるに相応しいです。

そして、これらの前提として、「何のために信託するのか」という信託の「目的」が存在することになります。法律上も「信託の目的」の存在が信託が存在する前提となります。信託の目的を失った場合、その信託は既に終了していることになります。

そして、その信託の目的は本人(受益者)のためになっていなければなりません。家族信託は、「託された人」の名義になりますが、「託された人」のためのものではなく、「託した人」(託した人が受益者となる場合)のためのものです。「何のために信託するのか」が、家族信託において非常に重要なテーマとなります。

家族信託で誰に承継するの?

家族信託では、本人に相続が発生した際の信託財産の取得者を決めることが多いです。

従いまして、この点については遺言と同様の効果が生じます(遺言の代用)。また、財産の価値の恩恵を受ける権利(受益権)について何代かにわたり引き継ぐことを前提に決めることもできます。(受益者連続)

よって相続全体のバランスを考慮して検討する必要があります。相続時にもめないように遺言書との併用を強くお勧めしています。家族信託を検討する際には、相続対象になる資産全体、そして将来相続人になる家族構成の把握と事情の再確認を行うことが大切になります。

まとめ

以上のとおり、家族信託の手続きをする際には、前提として、「何を」「誰に」「何のために」託すか。

そして将来の「相続人と相続財産」についての情報を確認して頂きたいところになります。当法人にご相談頂く際には、このあたりを中心としてお話をお聞かせ頂くことになります。ご遠慮なくご相談下さい。