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家族信託と生前贈与の違いとは?損しない適切な活用方法をやさしく解説

石井 満 代表社員
司法書士(京都第1278号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

家族信託と生前贈与の違いとは?

相続対策の方法として、遺言ではなく、生前贈与が採用されることがあります。遺言は、ご逝去後の財産の分け方を決めることになりますが、生前贈与は、文字通り生前に財産を移します。この点では家族信託も生前贈与と同じです。家族信託も生前に名義を移します。

しかし、家族信託と生前贈与では全くの別物です。名義を譲り渡す目的、内容、課税の有無など、多くの違いがあります。家族信託と生前贈与、それぞれの特徴を比べながら、その違いを見て行きます。

生前贈与の特徴とは?

財産が贈与されると、贈与税がかかります。しかし、贈与税には基礎控除というものがあり、受贈者1人あたり毎年110万円までの贈与に対しては課税されません。他にも婚姻後一定期間を経た配偶者間の贈与における特別な控除や、相続時清算課税制度など、様々な制度があります。

生前贈与は、贈与者が生きているうちにその財産を受贈者に移すわけですが、ここで移るのが所有権であるならば、所有権は物を自由に管理処分する権利です。

そのため、当然ですが、贈与後は所有権を取得した受贈者が贈与物を自由に管理処分することになります。贈与を受けたわけですから、当然に受贈者は自分のために自由に使用したり処分していけることになります。

このように生前贈与は、生前に財産を移すことになりますが、各種軽減・控除があるとはいえ、原則的には、贈与税という重たい税負担を受贈者が負うことになります。

家族信託と生前贈与の違いとは?

家族信託では、生前贈与と同じく財産の名義を受託者に移します。しかし、受託者は受益者のために財産を管理運用するだけで、移転した財産が受託者固有の財産となるわけではありません。自分のためでなく、あくまで財産の管理運用を託した人のために管理運用義務を負います。

このような家族信託の特徴から、信託によって名義を受託者に移しても、受託者に贈与税は課税されません。受託者は受益者のために財産を管理しているにすぎず、実質的に贈与はなされていないからです。

信託における課税は基本的に受益者に対して行われ、原則的には受託者に対しては課税されません。信託した財産の所有権は、受託者の名義となりますが、課税上は受益者が信託した財産を所有しているとみなされるのです。

そのため、委託者と受益者が同じであれば、受託者に財産を移しても財産的価値の移動がないので、贈与税は課税されません。

一方、委託者と受益者が異なる信託を設定する場合は、対価の有無によって委託者に譲渡所得税がかかったり、受益者に贈与税がかかることがあります。また、信託管理上生じる利益は受益者の所得として課税されることになります。このように、生前贈与と家族信託では、実質的な財産価値の保有者に大きな違いがあります。

家族信託では受託者がどのように財産を管理するかにつき、信託契約で定めます。そのため、財産の名義を受託者に移した後も、受託者は信託契約の目的に拘束され、その権限は契約に定めた範囲で行う必要があり、受託者が全く自由に信託財産を処分することができるわけではありません。逆に、委託者は契約に定めておくことで信託財産の管理をコントロールすることができます。

さらに、信託契約において、信託の終了事由を定めることができ、委託者と受益者の判断で解約することも可能です。

まとめ

以上のように、生前贈与と家族信託ではその目的、機能に大きな違いがあります。贈与は、財産名義を取得する人のためになされます。それに対して、家族信託は財産名義を取得する人である受託者のためではなく、受益者のために行われるものです。

どちらも財産の名義を移すという点では同じでありながら、その内容は大きく違います。生前贈与にするのか家族信託にするのか迷われた際には、一体何のために、誰のために行うのか、目的をしっかり考えてみてください。財産をこれからどうしていきたいのか、その思いを私たちにお話ください。皆様の思いを実現する方法をご提案させていただきます。