COLUMN

コラム・事例

【家族信託のメリットとは?】節税になるって本当?プロが優しく解説!

石井 満 副代表・麹町オフィス所長・民事信託事業部部長
司法書士(兵庫第2040号)・簡易訴訟代理等関係業務認定(第112066号)・民事信託士・行政書士

家族信託は贈与税がかからない?

「家族信託は、税金対策になりますか?」と質問を頂戴することがあります。結論としまして、家族信託自体、節税になるものではなく、そもそも、節税目的に家族信託を検討すること自体、将来的に危険要素を含むのではないかと思います。正しい家族信託を導入する目的は「節税」ではないのです。

家族信託を契約で行う場合、生前に「所有名義を移転する」ことが最大の特徴です。これは「委任」との大きな違いであり、名義を移転するとは、財産の処分権限やそこから発生する責任を移してしまうことを意味します。

当然、「生前に名義を移すと贈与になるのではないか?」「贈与税がかかるのではないか?」とまずは思うのではないでしょうか。しかしながら、信託で名義を移す場合は贈与にはなりません。よって贈与税がかかりません。但しこれには前提があります。「正しい信託契約」を交わして、かつ「正しい信託による管理」を行うことが前提となります。

信託により名義移転しても贈与税がかからないのは、名義を受けた者が、自分自身のためではなく、託した人のために財産を管理運用処分等を行っていく義務を負うからです。また、そのために名義を受けた者は自分自身の財産とは完全に分別して管理する義務を負います。

さらにその収支、財産状況をきちんと託した者に報告する必要があります。それらがきちんとんされているからこそ、「贈与ではない」「贈与税はかからない」のです。また契約内容も、そのことがきちんと表現されていて、名義を受けた者が好き放題できるような内容ではないことが前提です。

そもそも信託する目的が曖昧なものは、例え信託契約の体をなしていても、贈与とみなされる可能性があることは認識しておく必要があります。「名義は移転するが、あくまでも受益者のために」であるからこそ「贈与」にならないのです。

家族信託は相続税の節税になる?

以上のことから、生前により名義を移しても、それが正しい信託によるものであれば、贈与税はかかりません。生前に価値の移転が無いとされるからです。このことは、将来、その価値部分が誰かに移った際には、その移転に対して課税されることを意味します。

家族信託は、「遺言の代用」が可能であり、託した人が死亡した際に、価値部分(→「受益権」と言います)を取得する者を、予め決めておくことができます。このことで、遺言と同じように、財産承継者を予め決めておくことができます。

そして、この「受益権」が死亡により移転した場合は、当然「相続税」の対象となります。相続税法上は「みなし相続」としています。死亡のタイミングで「受益権」を取得した者が、あたかも信託財産に含まれる各財産や債務を承継したものとみなされます。この際、不動産等の各種軽減や配偶者軽減等の適用も受けることができます。

すなわち、信託したからと言って相続税上不利にはなりませんが、有利になるわけでもありません。家族信託をすること自体に相続税メリットがあるわけではありません。

しかしながら、家族信託により財産活用を後継者が行うことで、「結果的に相続税額が低くなった」ということはあり得るかもしれません。たとえば、更地を所有している人がいるとします。所有者である父親はこの更地について、将来は収益アパートを建築したいと考えているとします。

ただ、そのためには土地の造成や道幅の確保等、一定の期間がかかるとします。父親は今は元気ですが、高齢でもあり、「もし自分が判断能力を失ってしまった場合、自らできなくなってしまうのではないか。」と不安を覚えています。

父親には既にサポートしてくれる後継者がいるとします。このような場合家族信託が効果的です。すなわち今のうちに、信託で後継者に更地の名義を移転しておき、父親が意図する目的の範囲内で、後継者が自ら取得した権限により更地の造成、進入路の確保等の交渉、手続を行い、将来、後継者の権限により父親のために収益建物の建築、そのための借入担保提供を行うことができます。

そして将来父親に相続が発生した場合、収益建物の存在により、更地をそのまま相続していたのと比較すると相続税の軽減や控除の恩恵を受けることができた、と言うことはあり得るかもしれません。

このように、あくまでも節税が目的なのではなく、信託により財産権限を後継者に移しておくことにより、託した父親の意図することを、父親ができなくなっても後継者により実現することが信託の目的であり、その効果として結果的に相続税額が低くなったということはあり得ることです。

家族信託をすると不動産取得税が節約できる?

様々な家族信託の提案の中に、流通税の節税、特に不動産取得税の非課税を目的としたものもあると聞きます。確かに信託により不動産の所有権を移転しても、実質的には移転ではない、ということで不動産取得税はかからない、とされています。

このことを利用して、例えば事業承継対策として、個人所有の不動産を同族の資産管理会社等へ不動産を移転する場合、不動産そのものを移転するのではなく、不動産を別の人(又は別の同族法人、または自己信託)に信託して、不動産の「受益権」を譲渡する方法を提案されたりしているようです。

ただし、不動産取得税がかからないのは、あくまでも信託設定時であり、将来、信託が終了し、最終的にその不動産の権利を取得する者へ移転した場合は、その時点で不動産取得税はかかります。いわば不動産取得税が課税されないのではなく、先伸ばしする、と言った方が正しいです。

これに対して、それなら信託を終わらないようにすればいいと話す方もおられました。信託は条文上は「受益者連続型」という受益権の取得者等を予め決めておく信託ではない場合は、いわゆる「30年ルール」と言われる法律上の信託終了期間の適用がないことになります。このことを利用して、永遠の信託を提案すればいい、ということなのかもしれません。

私自身、このような信託の提案の妥当性を論じる立場にはありませんが、ただ思いますのは、このような信託の「信託の目的」は、いったい何だろう、と素朴に思います。永遠に信託を続ける必要性は一体何だろうと。当然、その目的とは「不動産取得税の節約」以外の確かなものがあるはずですが・・・・。

まとめ

信託は、大切な財産の所有権を移転してまでして、その財産の管理処分を託すことです。所有権を移転してまで託したいということは、託した人の、その託す目的が強くあることを前提とします。

そこには強い信認関係があるわけです、託された人はその信認関係の下、託した人のために財産を管理処分していく権限と強い責任を負います。節税そのものは決して信託の目的とは成り得ません。

もしそのような信託があるとしたら、将来、信託の存在そのものを疑われる事態が起こらないとも言えません。なぜなら信託法上、目的のない信託はそもそも信託ではない(若しくは終わっている)とされていますから。